クシャン朝とガンダーラ仏出現


■アレクサンドロスから仏像誕生までシリーズ
@バクトリア王国 インドグリーク朝
Aインドグリーク朝コインのアジア的意匠
Bギリシャ哲学とインド仏教の出会い
Cプレ・ガンダーラ美術期(インドスキタイ インドパルティア)
Dクシャン朝と仏像誕生

クシャン朝のインド北西部支配以後、いよいよ仏像制作が開始する。ヘレニズム文化の集大成ともいえる美術史上の大エポックである。

■クシャン朝の支配   1世紀後半〜
中国の敦煌周辺が故郷である月氏が、匈奴の圧力から西へと移動した。バクトリアの地まで達したものを大月氏と呼ぶ。
この大月氏のうちの貴霜族が、他の部族を制圧し、領土を広げていき、クシャン朝を名乗る。この時期にはローマとの交易がさかんになった。海路交易がさかんになり、インドの要衝部をおさえたクシャン朝には膨大なローマ金貨が流入する。その金貨を用いてクシャン朝は独自の金貨を発行し、金本位制をとる。ローマ金貨そのものが原料であるので、ローマ金貨と当然品質は同じで、大いに流通した。
■最盛期 2世紀中頃のクシャン朝(カニシカ王の治世)

1:クジュラ・カドフィセス
2:カニシカT世 :裏はシバ神
3:カニシカT世 :裏は女神ナナ


1は、バクトリアコインあるいは同時代のローマコインをまねた王の肖像のタイプ。大月氏がクシャンを名乗りはじめた頃のもの。
2.3のカニシカ王銅貨には、シバ神(インド) ナナ(イラン系の月の女神)と、特定の宗教に関わらずに神像を入れる。
他には、風神、仏陀の像も刻印される。表のカニシカ王の肩には、炎が上るのが見える。これは、拝火教であるゾロアスター教の表現である。つまりクシャン朝の国教はゾロアスター教であった。しかし、あらゆる宗教に寛容でもあった。仏教も多宗教のうちの一つであるが、大隆盛をむかえていった。


■ストゥーパの急増 1〜3世紀
ガンダーラ地方において、AD1世紀後半頃からストゥーパの造営が急に増え、そのピークがその後150年間ほど続く。
寺院建造もさかんに行われた。仏教が大隆盛したわけである。
下図は、舎利容器と内蔵物である。舎利容器は献納されたストゥーパ内に納められた。これは仏像出現にやや先だって現れる。下図の時代は1世紀〜3世紀で、詳細な時代確定はできていない。
極小の金製舎利容器には真珠の装飾が付く。耳飾りはブロンズ製で、金をきせている。
棒状の水晶の両端に金を巻いた物、金の薄い装飾具などが入る。

貴石類:
ラピスラズリ(青色)はアフガニスタン産
赤瑪瑙は、トルコ産
真珠は、当時はペルシャ湾産の物が有名であるが、本品は川真珠か?



ストゥーパは、日本で例えれば「春日大社に灯籠を納める」ようなものである。熱心な信者の献納物である。しかし、高僧の遺骨を納めた例もあるようで、この場合は墳墓を兼ねている。上図のような内蔵物の場合、装飾品が目立つので、僧侶ではなく、俗人の貴族か大商人の献納物である。


■ついに仏像出現 
【仏像が生まれるまで】

これまでたどってきたように、ガンダーラ地方にはインド・グリーク朝以来、ヘレニズムの下地があった。ギリシャ文化の伝統が連綿と受け継がれてきた。しかし、それだけでは仏像製作には向かわない。偶像崇拝をタブーとしてきた初期仏教の掟を破るまでには至らない。

次にガンダーラでは、「化粧皿」のようにギリシャ神話のモチーフを用いて、来世の幸福・再生を願うようになる。現世と来世の不安感が、宗教的エネルギーとして高まってきたと言える。

そこへクシャン人が登場する。

クシャン人はゾロアスター教を信奉していたが、同時にギリシャ文化の受容者でもあった。紀元前にクシャンの進出したバクトリアの地は、ギリシャ文化の温床であり、それにアジア的イラン的要素も加味された文化が熟成されていた。こうした背景を持ってガンダーラへクシャン人が流入し、仏教を受容していく。

クシャン人は、ギリシャ的な偶像崇拝には何ら抵抗がない。おりしも勃興しつつあった大乗仏教もクシャン人の信仰心をとらえたのだろうか。誰しもが救済者として頼れる仏像の製作を一気に推し進めたのは、新参の仏教信仰者のクシャン人の影響による。
仏像製作に当たっては、過去数百年に培われてきたヘレニズムの写実主義の伝統がある。それに加えて、同時代のローマの影響もあるようである。当時、海路から渡来したローマ人も多かった。

インドの仏教教義に基づき、ヘレニズムの写実主義で、それにギリシャ神話やゾロアスターの要素も加わり、数百年間に渡って蓄積された多地域多文化の混交が、ガンダーラ美術として花開く。

ごく単純な例として、左図の「占夢」を挙げる。柱は言わずと知れたギリシャ起源のコリントス様式。モチーフはインドの仏教説話。それをヘレニズムの写実主義で表現する。




参考文献

平山郁夫コレクション「ガンダーラとシルクロードの美術」 : 朝日新聞社
Gangaran ArtT 栗田 功 : 二玄社
Gangaran ArtU 栗田 功 : 二玄社
パキスタン・ガンダーラ彫刻展 :東京国立博物館 :NHK
世界史年表・地図  :吉川光文社
文明の道A ヘレニズムと仏教 :NHK出版 

■アレクサンドロスから仏像誕生までシリーズ
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