柿右衛門とマイセン


■マイセン カップ&ソーサー 
 マイセン現代作のカップ&ソーサーである。ドラゴンシリーズとして、オレンジ・グリーン・ブルー・ピンク・ブラウン・コバルトブルーのカラーバリエーションがある。そのうちのピンクが当品である。現代物なのだが、このカップ&ソーサー1つだけで、定価は9万4500円である。1点ずつの手描き制作と、何と言ってもマイセンというブランド力により、このような高額になっている。この品は幸い、オークションで安く購入できた。

 わざわざ、現代のマイセンを購入したのは、17世紀末頃の柿右衛門との比較をしたかったからである。
 龍文の柿右衛門小皿があるので、マイセンのソーサーとじっくり見比べたい。共通する要素が多い。

■柿右衛門様式色絵 龍文 小皿 径:14.4cm
■マイセン ドラゴン文 ソーサー 径:14cm
 2匹の龍・中央には鳳凰・龍の間には宝珠文と、たいへん似通った模様構成である。マイセンが柿右衛門様式龍文図を真似ている。ただ、この龍文皿をそっくりコピーしたものではない。このマイセンドラゴン文の原図はどのようなものだったのか? 古マイセンの中から探してみた。

■1730年代頃 マイセン ドラゴン文 (オークションカタログより)
 この画像の現物は、マイセン初期の逸品であり、我々庶民の手に入る物ではない。クリスティーズのオークションカタログから画像を拝借している。

 この古いオリジナルデザインは、柿右衛門そのものと言ってよいほど、和風である。 現代のドラゴン文は、このオリジナルと比べるとデザインの様式化が進んでいる。

 とはいえ、300年近く前の文様をいまだに守り抜いたところ、さすがは老舗ブランド・マイセンである。伝統を守るということでは、、ヨーロッパで一番頑固であるといえる。

 さらに、他の柿右衛門様式の龍文はないか、と探してみた。イギリスのアンティークショップHPで興味深い画像を見つけたので、次に紹介する。 STOCKSPRING ANTIQUES というアンティークショップである。 The Dragon and the Quail - English Kakiemon Porcelain (龍と鶉 イギリスの柿右衛門磁器)というタイトルで、柿右衛門様式の磁器を扱っている。
 → http://www.porcelainexhibition.com/dragons.htm

■伊万里柿右衛門様式小皿  他はイギリスの古窯・チェルシーの柿右衛門写し (画像は上記HPより拝借) 
 右の枠で囲んだものが、伊万里の柿右衛門様式龍文図小皿である。

 他は全てチェルシーの忠実な柿右衛門写しである。チェルシー窯は1750年頃に始まり、柿右衛門様式のコピー作を残している。同じイギリスのボウ窯も同様である。
 同時期のフランスでは、シャンティイ窯が柿右衛門写しに励んでいる。

 このように、ヨーロッパではマイセンだけでなく、イギリスでもフランスでも、柿右衛門を真似ていたのである。

 ちなみに、これらの柿右衛門写しの現在の商品価値は、すこぶる高い。
 

 さて、このあたりでもう一度、「柿右衛門様式龍文小皿」と現代の「マイセンドラゴン文ソーサー」の比較にもどる。
柿右衛門が、ドイツのマイセンにおいてどこまで変化しているか?

■龍(ドラゴン)文の違い
■鳳凰(フェニックス)文の違い
■様式化した宝珠文

 マイセンにおいて、柿右衛門が形を変えながらも引き継がれている例は、他にもある。その名も「カキエモン」という図案は、「柴垣に松竹梅文」が原型である。他にも、「竹と虎図」「鶴と東洋の花」など、柿右衛門様式が原型となっている。

 有名な絵師ヘロルトの創作した図案「インドの華」は、創業初期の1720年代に考案された。これも柿右衛門様式の花文がもととなっている。柿右衛門なのに、なぜインドなのか。それは、当時のインドという概念は、東洋全般を指していたからである。

 マイセンの絵付け工房の一つに、「インド様式絵付け部門」がある。このインド様式というのも「東洋」という意味で、中国・日本を指す。東インド会社がもたらす東洋の磁器(中国・日本)を真似ることで、マイセンは進化したのだった。
 
 今やマイセンは、世界一高価な焼き物と言ってよい。もとは日本(柿右衛門様式)に学んだマイセンであるが、今では日本人の憧れの的である。その日本人の好みの図案とは、ヨーロッパ風の花文様である。人は異文化に憧れるものなのだろう。



リンク: 柿右衛門様式

リンク: 元禄染錦とイギリス磁器



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